原点に還る過程その2- 循環に還る

前回の記事は、過去のしがらみや思考のくせ、ものの見方といったものを1年かけて捨て去り、無に戻っていく過程の話を書いた。今回から、再度創作の道に戻っていく最初のプロセスについて書いていきたい。補足だが、その無に戻る過程においては、今後何を自分でしていくのかすらも考えていなかったので、「再度創作の道に戻っていく」という書き方は厳密には間違っていて、自分が興味を持ったことにただ突っ込んでいっただけである。

たまたまフィリピンに滞在している際に知り合った方が看護師資格を持っていて、しかも中東ドバイに住んでいたという経歴も興味深く、よく世間話をするようになった。加えて、自分の家族が悪くなった際には大変お世話になったのだが、普段からちょっとした病気の対処法や日常の過ごし方のヒントを教えてくれて、人間の身体をどうなっているのか、知識として知っているということは大切なんだなと考えるようになった。また、前回のブログでも書いたように、子どもたちをさまざまな人種の子どもたちと遊ばせている時に感じたこと、例えば違う人種や国籍の人に感じる感覚的な違いや違和感といったものを少しずつ取り除いていった時に何が共通の要素として残っていくのか、そんな事にも興味が湧いていた。

話は少し逸れるが、長期滞在して興味深かった国がマレーシア、シンガポールである。もともとマレーシアがあり、その後華僑系が小さなシンガポールという国を端っこに作ったというのがごく大雑把な説明になるが、現地の東南アジアマレー系を中心に、華僑系とインド系、そして少々の西洋系という人種構成が作り出す国の雰囲気が独特だった。ただそこで長く過ごしてみると見えてくるのだが、その文化が混じり合っているかというとそういう感じでもなく、それぞれがそれぞれの領域を作って共存している感じは、世界的に見て珍しいのではないかと思う。アメリカも多様な人種が集まってきて混じり合っていくが、マレーシアやシンガポールは共存している。どちらも多様性のある社会のあり方なんだなと私は思う。

話を戻す。そんな人間の身体についての興味が出てきたので、海外滞在一年目で子育てや語学の勉強以外の時間は有り余っていたこともあり、科学に関する英語文献を読み漁った。私はもともと工学系の大学出身で、そこには農学部や医学部などがなかったこともあり細かい科学的ジャンルに疎かったので、生物学や脳科学、医学など順繰りに読んでいったのだが、そこで見つけたのが「Physiology(生理学)」という分野だった。

❝生理学 (Physiology) とは、人体を構成する各要素(それは組織、器官であったり細胞であったりする)がどのような活動を行っているかを解き明かす学問である。各要素がどのような機能を持つかという基本を抑えたうえで、その機序への理解を深めていく。更に複数要素の関わり合い、ひいては全身の機能を総合的に捉えられるようにする。これには、各要素の分類や形態的特徴(解剖学)や代謝反応などに関する生化学の知識が要求される。❞(引用:Wikipedia「生理学」

個人的にこのような文献を読むのが初めてだったので感じたのだが、西洋文明に立脚した学問や科学と言った文献というものは、日本語で読むものよりもより奥行きがあるように感じる。知識の底が見えない感じ。多くの人が群となって学際を探究していくという西洋文明の方法論とその蓄積がもたらす世界観といったものには自分の場合縁もなく、語学的能力の限界もあったため、本を読むだけで世界を広げていくことには限界があった。そういったこともあったので、先述の看護師の知り合いが話し相手になってもらえたことが幸運だった。具体的には、平日1時間その友人に自分がその生理学で学んだことを説明し、補足説明という形でレクチャーをしてもらうということを半年ほど続けた。半年もやっていると、日本語ではなく英語を入り口にしながら、感覚的なイメージが脳内に浮かび上がるようになってきたのは、集中してひとつの世界に取り組んだことと、学んだことを自分で他人に説明するというアウトプットを軸にした学びだったからだろうと思う。

大まかに私がつかんだこととしては、以下9つのシステムで身体は機能しているということである。(細かくいうと生殖器系や外皮系などもあるが、中心から離れたシステムのように思えたので、除外させていただく)

  • Skeletal system:骨
  • Muscular system:筋肉
  • Respiratory system:呼吸器のシステム(空気の取り込みと排出)
  • Digestive system:消化器のシステム(固体液体の取り込みと排出)
  • Circulatory system:循環器のシステム(血液による流通網)
  • Urinary system:泌尿器のシステム(血液の汚れを濾過し排出する)
  • Endocrine system:液体による身体調整系システム(血液に情報を混入させて身体をコントロールする)
  • Lymphatic system:リンパ系のシステム(独自の経路で身体をコントロールする)
  • Nervous system:神経系のシステム(脳と神経で身体をコントロールする)

個人的に興味を持ったのが血液のシステム、循環器系のシステムである。理屈抜きでキラキラして見えた。身体をコントロール、必要な素材の交換、骨格や運動といったシステムすべてを、血液という流れの存在が支えていて、その循環する流れそのものが生命体の本質とつながっているような気がしたのだ。それくらい、キラキラして見えた。血は体内を隅々までめぐり、さまざまな素材を運ぶ。必要なものを届け、不必要なものを受け取る。中心に存在する太い管から末端の細かい管まで、行っては戻るを繰り返す身体の流れ。寝る前など、目を閉じてはそのくるくる回る流れみたいなものが、脳裏に浮かび上がってくるようになってきた。

そうやってくるくる身体の中で血液が回っていくイメージが拡張していき、すべての存在はこういった回転する流れと関係しているはずだ、という根拠のない直観を持つようになった。先述の通り、生理学システムでは9つのシステムが重なり合ってひとつの身体を機能させる、9つの流れが何かしら関係を持ちながらくるくる回っているイメージ。そしてその流れは、時間の流れや原子レベルでのスピン、太陽系や銀河などの回転する流れと何かしらの関連性があるのではないか。

途中から根拠のない空想を書き並べてしまったが、無に還った私が最初に気になったテーマは「循環」である。そして、ただ意味もなくボールペンで紙にぐるぐると円を書き続けた。そこに言葉はなく、ただぐるぐると円を書き続ける。一周ごとに微妙に変化し続ける円がただただ重なっていく感じを目に焼き付ける。そんな行動をただただ繰り返すとともに、目を閉じてはくるくる回転する感じをイメージした。その当時はまだ2次元の円しかイメージできなかったが、数年後にはその円が球体化していくのだが、それについてもいつか書いてみたいが、とにかくこの「循環する」という構造が今の創作の入り口だったということで、今回の文章をおしまいにしたい。

本日のタイトル画像:

Infinite loop geometric pattern No.585
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